静岡地方裁判所 昭和50年(行ウ)5号 判決 1981年5月26日
《住所省略》
昭和五〇年(行ウ)第五号、昭和五一年(行ウ)第八号事件原告 岩田一男
《住所省略》
昭和五一年(行ウ)第八号事件原告 勝又茂雄
<ほか四名>
右原告ら訴訟代理人弁護士 大野正男
同 田邨正義
同 西垣道夫
同 廣田富男
同 倉科直文
《住所省略》
昭和五〇年(行ウ)第五号、昭和五一年(行ウ)第八号事件被告 湯山勝人
右訴訟代理人弁護士 山本雅彦
同 石川和市
主文
(昭和五〇年(行ウ)第五号事件)
被告は、静岡県駿東郡小山町に対し、金二五四二万円及びこれに対する昭和五〇年八月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
原告岩田一男のその余の請求を棄却する。
(昭和五一年(行ウ)第八号事件)
原告らの請求を棄却する。
(訴訟費用の負担)
訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の負担とし、その余は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
(昭和五〇年(行ウ)第五号事件)
1 被告は、静岡県駿東郡小山町に対し、金三六七六万四八五五円及びこれに対する昭和五〇年八月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
(昭和五一年(行ウ)第八号事件)
1 被告は、静岡県駿東郡小山町に対し、金二二二一万一四四五円及びこれに対する昭和五一年九月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
(昭和五〇年(行ウ)第五号事件)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする
(昭和五一年(行ウ)第八号事件)
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 原告らはいずれも静岡県駿東郡小山町の住民である。
(二) 被告は昭和四六年五月から同町の町長の地位にある。
2 契約締結と代金支払
(一) 昭和四九年度契約(昭和五〇年(行ウ)第五号事件)
被告は小山町長として、訴外株式会社エム・アイ・ケイ計算センター(以下「M・I・K」という)との間で、昭和四九年四月一日、左表上、中欄のとおり、各種事務について、代金総額金四三一〇万円で、コンピュータによる事務処理委託契約(以下「昭和四九年度契約」という)を締結し、同表下欄のとおりその代金がM・I・Kに支払われた。
委託業務内容
代金額
代金支払状況
1
住民記録異動処理
(昭和四九年四月一日から一年間)
金五〇八万二〇〇〇円
昭和四九年六月五日から
昭和五〇年二月一五日まで
四回にわたり分割支払
2
住民税徴収事務
内訳
a計算システム開発分
b徴収事務処理分
(右同)
合計一三三五万六〇〇〇円
内訳
a金六七五万六〇〇〇円
b金六六〇万円
a昭和四九年五月一五日
b昭和四九年六月五日から
昭和五〇年二月一五日まで
四回にわたり分割支払
3
町職員給与計算事務
但し、システム開発分
金七四七万七〇〇〇円
3、4、5aの合計金
一八六六万四〇〇〇円を
昭和五〇年五月六日から
昭和五一年二月五日まで
五回にわたり分割支払
b昭和四九年六月五日
4
国民健康保険税徴収事務
但し、システム開発分
金七一三万円
5
軽自動車税徴収事務
内訳
aシステム開発分
b徴収事務処理分
(右同)
合計金四二七万七〇〇〇円
内訳
a金四〇五万七〇〇〇円
b金二二万円
6
水道料金計算事務
金五七七万八〇〇〇円
昭和四九年六月五日から
昭和五〇年三月五日まで
四回にわたり分割支払
(二) 昭和五〇年度契約(昭和五一年(行ウ)第八号事件)
被告は小山町長として、M・I・Kとの間で昭和五〇年四月一日から昭和五一年三月三一日までの間に左記の各種事務について代金総額金二七八四万五七四〇円で、コンピュータによる事務処理委託契約(以下「昭和五〇年度契約」という)を締結し、右代金全額が昭和五〇年六月ころから昭和五一年三月ころまでの間に支払われた。
(1) 住民記録異動処理(昭和五〇年四月一日から一年間)
(2) 住民税徴収事務(右同)
(3) 軽自動車税徴収事務(右同)
(4) 県議会議員選挙事務
(5) 町議会議員、町長選挙事務
(6) 町職員給与計算事務(右同)
(7) 国民健康保険税徴収事務(右同)
(8) 水道料金徴収事務(右同)
3 随意契約によったことの違法
(一) 昭和四九年度及び昭和五〇年度各契約(以下、総称して「本件各契約」という)は、地方自治法二三四条に規定する随意契約の方法によって締結された。
(二) 地方公共団体は政令で定める場合に該当するときに限り、随意契約の方法により売買、貸借、請負その他の契約を締結することができるのであって、同法施行令一六七条の二には随意契約によることができる要件が定められている。
しかし、本件各契約は同条で定めるいずれの要件にも該当しない。
(三) まず、被告は、本件各契約が「競争入札に付することが不利と認められるとき」(同法施行令一六七条の二第一項三号、昭和四九年政令第二〇三号による改正後は同項四号、施行は同年六月一〇日)に該当すると主張するが、同号は、競争入札に付すると信用のない者または不誠実な者が入札に参加し、競争入札の適正な運営ができず、そのため地方公共団体が損害を蒙るおそれのある場合をいうのであって、本件においてこのような事情は全く存在しない。
(四) 次に、被告は、本件各契約が「契約の性質または目的が競争入札に適しないとき」(同条一項一号、前記改正後は二号)にも該当すると主張するが、以下の理由により右主張も失当である。
(1) 被告は競争入札の方式によれば、委託事務別に入札を行なうことにより、複数の計算センターと契約することになるという。
しかし、委託事務を一括して競争入札に付することも可能であり、また事務ごとに委託先が異ったからといって支障をきたすことはない。
(2) 被告は、年度ごとに競争入札を行えば年度ごとに委託先が異ることになり、事務処理に著しい混乱が生じるという。
しかし、コンピュータによる地方自治体の事務処理は画一的なものであるから、年度ごとに委託先が変っても混乱は生じない。特に、フローチャート、プログラム説明書等のドキュメンテーションがなされている以上、業者が変わっても支障はない。
(3) 地方公共団体におけるコンピュータの導入は昭和四三年頃から急増し、昭和四九年四月一日現在、全国市区町村の六三・四パーセント、二、〇八八団体が何らかの形態でコンピュータを事務処理に利用している状況であった。小山町と同じく単独委託の形態をとった地方公共団体は一、六三四団体にのぼっている。静岡県下をみると、七五市町村のうち八一・三パーセントにあたる六一の市町村がコンピュータを利用し、そのうちで委託の形態をとっている市町村は一九である。
このような趨勢に対応して市町村からの委託を受ける能力を有する計算センターが多数存在し、静岡県下では静岡市所在の株式会社静岡情報処理センター、清水町所在のM・I・C計算センターなど二〇以上の業者が存在していた。東京、横浜などの業者も加えるとはるかに多くの委託先がある。本件各契約締結当時、市町村から事務処理を受託するため、多数の計算センターがしのぎを削って競争している状況にあった。
そして、自治体の事務、特に住民記録、各種税徴収などは、その事務処理内容、処理様式などが法令、国の行政指導などにより統一されているところが多く、どの市町村でも共通のものであった。市町村における事務処理上の相違部分はそれほど多くなく、コンピュータによる事務処理としては末端の些細なプログラムの変更程度でまかないうるものであって、受託事務の処理内容に質的差異をもたらしたり、代金額に大きな相違をきたすようなものではない。
このように事務処理の内容等に共通性があるところから、昭和四八年、四九年当時、コンピュータメーカー、あるいは計算センターなどは、地方公共団体の各種の事務に関するシステムを進んで開発し、業者間でシステムを提供しあうなどして、いつでも地方公共団体から事務処理を受託できる態勢をとっていた。
計算センターのこのような実状からして、本件各契約は競争入札に適し、地方公共団体にとって競争入札に付することが有利であった。
(五) 委託条件について
被告は、その主張にかかる三条件を満たすことのできる計算センターとしては町庁舎に最も近いM・I・Kが最適であったと主張するが、右三条件は、いずれも本件において競争入札の例外条件である前記地方自治法施行令一六七条の二第一項各号の事由に該当しない。しかも、右三条件は本件各契約締結に際して付されていたものではなく、本件訴提起後随意契約の方法によった根拠として考え出された理由づけにすぎないものである。
仮に、委託に際して右三条を付する必要があったとしても、競争入札の条件とすれば足りることで競争入札を排除すべき理由とはならない。
また、右三条件を満たすか否かと、業者と町庁舎との距離がどの程度かとは直接の関係はない。少なくとも町庁舎から最も近いことが不可欠の理由ではない。
(六) 「総合管理方式」について
被告は、小山町がその主張する「総合管理方式」をめざしてシステム開発をすすめてきたことが随意契約によった理由の一つであると主張するかの如くである。
しかし、これは本件各契約について競争入札を否定し随意契約によるべき理由とは到底ならない。
M・I・Kの作成したシステムが総合管理方式か否かは後に述べるようにすこぶる疑問である。
しかし、この点をしばらくおくとしても、被告主張の総合管理方式を採用するからといって競争入札に付することが不適当とか不利だということにはならない。
市町村の行政事務は、住民記録にしろ、住民税、国民健康保険税にしろすべて住民基本台帳法、地方税法、国民健康保険法その他の法令で一律に定められていたから、市町村がこれらの事務を行ううえで独自性を発揮する余地は殆んどなかった。そこで、民間の計算センターや、株式会社富士通等のコンピュータメーカーは、住民基本台帳事項の外、税務関係の情報なども同時に住民記録にファイルして、これを中心に各種の行政事務のコンピュータ処理を合理的かつ迅速に行うためのトータルシステムを開発し、システム開発料を請求せずに市町村から事務処理を受託していた。そして、静岡県下にも計算センターが多く存在し、東京、横浜の有力計算センターも小山町からの委託にこたえられる状況であった。また、民間の計算センターのほかに財団法人地方自治情報センターも市町村のためのトータルシステムを用意してこれを利用しようとする市町村に公開していた。
被告のいう「総合管理方式」とは、単に住民記録ファイル(住民基本台帳事項のみが入力されている)と個別の業務別ファイルとを連結させるシステムというにとどまり、右の意味でいう本来のトータル・システムには至っていないもののようであるが、いずれにしても右総合管理方式を採用するからといって、随意契約によらねばならない理由は何も存在しないのである。
被告がM・I・Kに委託したシステムは既存のトータルシステムと異った独自性があるものでもない。
(七) 他の契約が先行していたことについて
本件各契約は昭和四七年一〇月および昭和四八年四月二日の水道料金計算事務委託契約、昭和四八年一〇月一日の住民記録に関するシステム開発の契約以後に締結されている。しかし、これらの契約が先行したからといって、本件各契約が随意契約によってよいということにはならない。
4 条例違反
(一) 小山町条例第一八号二条は、地方自治法九六条一項五号、同法施行令一二一条の二第一項の規定により予定価額金一〇〇〇万円以上の工事または製造の請負契約を締結するには議会の議決に付さなければならないと定めている。
その趣旨は、執行機関が締結する一定額以上の契約について、議会に対しその内容を知らしめ、その承認を得させることによって執行機関の独断と業者との癒着を排し、町が不当不正な契約により損害を蒙ることがないよう防止するとともに、町政の民主的運営を徹底させようということにある。
(二) 本件各契約は、厳格な意味で「工事または製造の請負契約」には該当しないが、前記条例の規定を準用し契約の締結には、議会の議決を必要とするものとすべきである。
(三) 昭和四九年度契約は、同年四月一日、代金合計金四三一〇万円で締結したものであるから、その内訳や契約書ごとの代金額にかかわりなく、総体として予定価額金一〇〇〇万円以上の契約に該当する。
昭和五〇年度契約は、昭和五〇年四月一日から同年七月七日まで数回に分けて締結されていて、契約日あるいは契約書ごとにみると代金額が予定価額金一〇〇〇万円未満のものがあるとしても、昭和五〇年四月一日から昭和五一年三月三一日までの間になされた同種の契約として総体で予定価額金一〇〇〇万円以上の契約に該当すると解すべきである。
(四) しかるに、被告は議会の議決を経ずに本件各契約を締結した。
従って、本件各契約の締結について、被告には右条例に違反した違法がある。
5 善良なる管理者の注意義務違反(財務規則違反)
町長は、町を総轄代表し、町の事務を執行する権限と責任を有するものであるから町との間の法律関係には民法上の委任関係の規定が適用される。したがって、被告は小山町長として町の事務を執行するについて善良なる管理者の注意義務を負っている。
しかるに、被告は本件各契約を締結するにあたり、契約代金、内容が適正であるか否かについて以下のとおり右注意義務を尽さなかった。
(一) M・I・Kの調査の欠如
被告は、M・I・Kの資本の額、役員構成、信用、過去の実績、能力について必要な調査を怠ったまま本件各契約を締結した。
M・I・Kは、昭和四六年一一月二日設立された旧商号梶経電子計算センターという会社で、資本の額は設立当初金二〇〇万円であったが、小山町から住民記録のシステム開発の委託を受ける直前である昭和四八年四月に金八〇〇万円に増額された。
使用機種は当初リコムエイトという小型機であったが、昭和四九年四月ファコム二三〇―一五に変更したにすぎない。しかも、当時、小山町以外の地方公共団体の事務の委託を受けた実績はなく、技術者は市町村におけるコンピュータによる事務処理の方法、内容にくらく、既に開発されていたシステムに関する情報も知らなかった。
以上のとおりで、M・I・Kには、小山町の事務を、しかも被告の主張する総合管理方式あるいはトータルシステムで、受託する能力はなかった。
そもそも、特に競争入札を排除して随意契約によるのであれば、受託業者の信用、実績、能力について十分確認をし、競争入札によった場合に比して不利でないようにつとめることが最低の条件である。
しかるに被告は、その随意契約の相手方であるM・I・Kの資本、経歴、実績、能力などについて、ほとんどみるべき調査をしないまま、本件各契約を締結した。このことは、見のがすことのできない過失であり、後記のごとく異常に高額な委託代金を支払う原因の一となったものである。
(二) 他市町村、他業者の調査の欠如
本件各契約締結当時、既に地方自治体にコンピュータによる事務処理が普及し、その事務処理を受託する計算センターなどが数多く存在していたのであるから、被告は本件各契約の委託方法、処理内容、委託費用の適正を期するため、事前に静岡県あるいは近隣の都県の委託公共団体、受託計算センターについて、このようなことを調査研究すべき義務があったのに、これを著しく怠って、M・I・Kのいうがままに契約した。
(三) 実質的競争の欠如(財務規則違反)
地方公共団体が締結する契約は競争入札によるのが原則であるが、もし何らかの理由で随意契約の方法によるとしても、競争入札を原則とする法の精神にのっとり、地方公共団体は可能な限り複数の相手方に実質的な競争をさせることによって、契約の適正を担保するように努めなければならない。小山町財務規則一六四条が、随意契約によるときは「なるべく二人以上の者から見積書を搬するものとする。」と定めているのは右の趣旨を明らかにしたものである。従って、被告は本件各契約締結にあたり、事前に複数の業者から見積書を徴し、委託代金額、処理内容等を比較検討して最善の選択をすべき注意義務があった。
しかるに、被告は見積書を複数の業者から徴することを怠り、実質的競争をさせないで本件各契約を締結した。
なお、被告は昭和四九年一月、大興電子通信株式会社からも見積書を徴しているが同社は、M・I・Kにコンピュータをレンタルで納入した業者であって、公正な見積りは期待できないばかりでなく、しかもその見積り依頼は、M・I・Kの見積書の金額欄を墨でぬりつぶし、金額の記入だけを求めたものであって、M・I・Kが内訳を出した人工数、マシン使用時間をそのままとした場合の金額だけを出すに過ぎないこと等から、これをもって二人以上の者から見積書を徴したことにはならない。
(四) 代金額適正化のための努力の欠如
(1) 被告は、本件各契約において予めM・I・Kの提出する見積書の金額そのままを契約代金額としてうけいれている。被告がM・I・Kに対し代金額の適正化を求めて交渉、努力した形跡は全くみられない。
(2) 本件各契約におけるM・I・Kの見積りは、その処理全工程を人工数、パンチ数、マシン使用料等に細分化して、それに相場よりも高い単価を乗じて集計したうえ根拠不明の諸経費二五パーセントを加えたものである。M・I・Kの見積りが異常に高いのは、このような見積り形式をとったことも一つの要因となっている。
このような見積りは、「原価積上げ方式」であり、いわば市町村が単独導入したところと何ら変わるところはなく、民間委託の場合としては異常な見積りである。
委託の場合は、当然のことながら、一件あたり、あるいは住民一人あたり何円かのコストで見積られるのがむしろ普通のあり方である。受託業者のコスト計算をそのまま委託者が支払うことなく、受託者側の企業努力、量産によるコスト分散などにより委託料金の適正化を図るところに、委託の形態をとる重要な意義があり、委託する側としては前記実質的競争あるいは交渉により右適正化を図るのが当然である。
また被告はM・I・Kの見積りに対して、その見積りの基礎となる人工数、パンチ数、マシン使用時間に対して何らの検討を行っていない。
(3) 良質の処理を、低額の委託料で委託するため、競争入札あるいは数社の見積り合わせを行い、さらに引き続く業者との交渉で代金額の適正化と処理内容の向上を図るというのが、地方公共団体の執行責任者として当然尽すべき注意義務である。
被告は、右の注意義務を全くといってよいほど尽していない。これも被告の本件各契約の締結およびその履行に際しての重大な過失といわねばならない。
(五) 議会からの注意、要望の無視
(1) 住民記録のシステム開発の予算は、補正予算として昭和四八年九月の定例議会で審議され、一〇月一日可決されたが、その審議の過程で、M・I・Kはどんな会社であるかとか、競争入札が必要ではないかとか、代金が高すぎないかとの意見が出され、予算案を審議した総務委員会は、予算案が可決されたからとして直ちにコンピュータを委託するということなく、できるだけ念入りに検討を加え、特に専門家の説明を委員会にもして貰う様措置されたいとの意向を付して予算案を承認した。また、総務委員会の議決に先立ち、鈴木敏一議員が「予算が採択されたら直ちに執行するという事でなく、種々と検討をし慎重に事を運んだ上で執行されることを当局に申入れ原案に賛成いたします」と述べたのに対し、被告は「議会が終了したら一応皆さんにも御検討をいただいた上で執行することにいたします」と述べている。
被告は、このように議会からM・I・Kの内容、契約代金の可否、契約方法等について慎重な検討を促され、自らも議員らに検討してもらったうえ予算を執行する旨明言しながら、一〇月一日に予算が可決されるや、即日M・I・Kと住民記録に関する契約を締結している。
(2) 議会はその後も特別委員会を設けたりしてコンピュータによる事務処理委託の問題を審議してきたが、昭和五〇年度一般会計予算を審議した同年三月の議会は、被告の提案した固定資産税のシステム開発費用金二八七二万円の債務負担行為を削除して予算案を可決した。そしてその際特別委員会は予算中のコンピュータ委託費用のうち二七パーセントに相当する七二五万円の節減をはかるようにとの意見を付した。この意見は、本件各契約代金が高すぎるという議会側の表明である。
(六) システム開発委託の不必要性
被告は、昭和四九年度に住民税、軽自動車税、国民健康保険税、給与計算の各業務についてシステム開発をM・I・Kに委託し、その代金合計は金二五四二万円である。
しかし、右システム開発は、以下の理由により不要である。
地方公共団体が行政事務をコンピュータにより処理することを委託する場合、処理結果の正確、迅速、経済性、内容などが重要であって処理過程のシステムは独自に意味をもつものではない。
従って、既に開発され普及している個別処理システムあるいはトータルシステムにより目的とする事務処理が可能であれば、あらためて独自のシステムを開発する必要は全くない。
本件各契約締結当時、各計算センターでは、個別処理システムよりも長所、利点の多いトータルシステムを開発し実用に供していた。そして、トータルシステムあるいは個別処理システムのいずれであっても、市町村から事務処理を受託するには、システム開発費を請求することなく事務処理委託費用の見積額で競争していた。
小山町が既存のシステムよりもすぐれた処理内容をもつシステムを開発する場合であれば、システムの開発を委託し委託料を支払うことに意味がある。しかし、被告が総合管理方式であると主張する本件各契約にかかる事務処理のシステムはトータルシステムでないことは勿論のこと、その言うところの総合管理方式にも達しないむしろ既存の個別システムの域を出ない、正確性も劣るものである。
6 契約代金支払いの違法
3ないし5項のとおり、本件各契約を締結した被告の行為は違法である。したがって、この違法な契約の履行としてなされた本件各代金の支払いも違法である。
7 損害
(一) 本件各契約の適正委託代金額算定の基準
もし被告が指名競争入札の方法をとり、かつ、小山町議会の承認をえて本件各契約を締結していたら、小山町は、高くとも株式会社ティ・ケイ・シィ(以下単にティ・ケイ・シィという)が作成した見積書記載の価額以下でコンピュータによる事務処理をなしえたことは明らかである。本件各契約の締結について被告が前記のとおりの善良なる管理者の注意義務を尽して随意契約を締結した場合についても全く同様である。
(1) ティ・ケイ・シィは、宇都宮市に本店事務所をもつ日本でも有数の計算センターであり、東京都、埼玉県、宮城県等各地に計算センターを置いていた。特に市町村の事務については昭和四六年に栃木県庁と共同開発したトータルシステムを有し、これをもとに栃木県下の自己導入している団体を除くすべての市町村、埼玉県内の一〇数か市町村等数多くの市町村から事務委託を受けている。
(2) ティ・ケイ・シィの前記見積りは同会社のトータルシステムを利用するものであり、その出力帳票も住民税、軽自動車税、国民健康保険税、給与計算、住民記録については、被告がM・I・Kの受託したとする事務より豊富である。但し、ティ・ケイ・シィの前記見積書には住民記録異動処理の転記作業は委託業務に含まれていない。また、水道料金計算業務に関して、消し込み作業、会計業務が含まれていないが、ティ・ケイ・シィの能力からみてかかる業務をつけ加えることはごく容易である。
(3) ティ・ケイ・シィの前記見積りは、以下(イ)ないし(ヘ)のとおり小山町の処理件数に見合うものである。
(イ) 住民記録に関しては、ティ・ケイ・シィの見積りは人口二万四〇〇〇人、年間異動件数七、〇〇〇件を前提としているが、小山町の人口数、M・I・Kが見積った異動件数と一致する。
(ロ) 住民税徴収事務に関しては、ティ・ケイ・シィの見積りは普通徴収件数四、〇〇〇件、特別徴収件数七、〇〇〇件として算定されているがこの数字はM・I・Kの見積りの件数と一致する。
(ハ) 国民健康保険税に関してはティ・ケイ・シィの見積りは、被保険者数六、〇〇〇、世帯数二、〇〇〇として算定しているが、これは、住民税の普通徴収件数四、〇〇〇件を二、〇〇〇件上まわるもので充分妥当な数字である。
(ニ) 軽自動車税徴収事務に関しては、ティ・ケイ・シィの見積りでは軽自動車の登録台数を三、三〇〇台としているが、これは小山町の登録台数にほぼ一致する。
(ホ) 水道料金計算業務に関しては、ティ・ケイ・シィは需要家を五、〇〇〇件として見積っているが、実際の戸数は四、九七五戸である。
(ヘ) 給与計算業務に関しては、ティ・ケイ・シィは職員数を三二〇人としているが、これは小山町の職員数と一致する。
(4) ティ・ケイ・シィの見積書は、昭和五〇年三月一〇日付のものであるが、昭和四九年度も、昭和五〇年度も、単価は変更ないので、本件各契約をこの価額で受託することが可能である。
なお、見積書の価額は、実際にティ・ケイ・シィが埼玉県下で請負っているのと同じ単価で算出してある。
(5) システム開発料は請求していない。
(6) 適正委託代金額は右ティ・ケイ・シィの見積りによる代金額を基礎としつつ、これに損害を控え目にすべく必要な修正を加えた額としてある。
(二) 適正委託代金額
前項の見積りをもとにして、小山町が現実に委託し得る価額はつぎのとおりとなる。
(三) システム開発費
被告は、本件各契約のうち昭和四九年度契約代金中金二五四二万円は住民税、軽自動車税、国民健康保険税、給与計算のシステム開発費であると主張しているが、5項(六)のとおりシステム開発は不要であり、そのシステム開発費をコンピュータによる事務処理費に加える必要は全くない。
昭和四九年度
業務の種類
ティ・ケイ・シィの
見積りを基礎とした
委託可能代金額
本件契約代金
(システム開発費を含む)
住民記録異動処理
金二九三万七一六〇円
金五〇八万二〇〇〇円
住民税の徴収業務
金六七万円
金一三三五万六〇〇〇円
国民健康保険税の
徴収事務
金二五万〇三八五円
金七一三万円
軽自動車税の
徴収事務
金一一万〇四〇〇円
金四二七万七〇〇〇円
給与計算事務
金四四万八〇〇〇円
金七四七万七〇〇〇円
水道料金等の事務
金一九一万九二〇〇円
金五七七万八〇〇〇円
合計
金六三三万五一四五円
金四三一〇万円
昭和五〇年度
業務の種類
ティ・ケイ・シィの
見積りを基礎とした
委託可能代金額
本件契約代金
住民記録異動処理
金二〇九万七一六〇円
合計
金二七八四万五七四〇円
住民税の徴収業務
金六七万円
国民健康保険税の
徴収事務
金二五万〇三八五円
軽自動車税の
徴収事務
金五万七六〇〇円
給与計算事務
金四三万五二〇〇円
水道料金等の事務
金一八一万九二〇〇円
県議会議員選挙
処理費
金一五万二三七五円
町長・町議会議員
選挙処理費
金一五万二三七五円
合計
金五六三万四二九五円
金二七八四万五七四〇円
(四) 損害算定の方法
2項(一)、(二)のとおり、本件各契約に基づき昭和四九年度契約代金合計金四三一〇万円及び昭和五〇年度契約代金合計金二七八四万五七四〇円が支払われたことにより、小山町はこれらから前記各適正委託代金額を差し引いた金額である、昭和四九年度分金三六七六万四八五五円、昭和五〇年度分金二二二一万一四四五円の各損害を受けた。
8 監査請求
(一) 昭和五〇年(行ウ)第五号事件原告岩田一男及び訴外松本俊男は、2項(一)昭和四九年度分契約締結と代金支払につき、昭和五〇年四月一四日、地方自治法二四二条に基づき小山町監査委員に監査請求をしたところ、同委員は監査の結果、請求は理由がないとして昭和五〇年六月一〇日付書面で、原告岩田一男にその旨通知した。
(二) 原告らは、2項(二)昭和五〇年度分契約締結と代金支払につき、昭和五一年六月二日、地方自治法二四二条に基づき、小山町監査委員に監査請求をしたところ、同委員は監査の結果、請求は理由がないとして昭和五一年八月二日付書面で原告らにその旨通知した。
9 結論
(一) 原告岩田一男は、前項(一)の監査の結果には不服であるので、地方自治法二四二条の二第一項に基づき小山町に代位して、被告に対し、損害賠償金三六七六万四八五五円及びこれに対する昭和五〇年(行ウ)第五号の訴状到達の日の翌日である昭和五〇年八月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を小山町に支払うことを求める。
(二) 原告らは、前項(二)の監査の結果には不服であるので、地方自治法二四二条の二第一項に基づき小山町に代位して、被告に対し、損害賠償金二二二一万一四四五円及びこれに対する昭和五一年(行ウ)第八号の訴状到達の日の翌日である昭和五一年九月八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を小山町に支払うことを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1項の事実は認める。
2 同2項の事実は認める。
3 同3項のうち(一)の事実は認めるが、その余の事実は争う。
本件各契約は、地方自治法二三四条二項、同法施行令一六七条の二第一項一号(前記改正後は二号)、三項(同四号)の「契約の性質または目的が競争入札に適しないとき」「競争入札に付することが不利と認められるとき」に該当するものであるから適法である。
すなわち、競争入札の方式により、委託事務別に入札を行なえば、複数の計算センターと取引する事態の生ずるおそれがあり、また年度別に入札を行えば、年度ごとに委託先が異なることも生じ、事務処理に著しい混乱が生ずるおそれがあるばかりでなく、委託先である計算センターについても契約の性質上、その信頼性、並びに「導入に関する作業のすべては受託計算センターが小山町庁舎内において資料を閲覧転記することとし、小山町の事務遂行に支障を及ばさない方法で処理すること」、「従来、小山町が使用していた帳票の様式の変更を認めない」、「町行政における秘密保持の要請及び委託計算センターに対する監督を確保し、その行使を実効あらしめること」という委託条件に基づく処理能力あるいは秘密保持能力、それらに関連して地理的条件などを総合的に考慮する必要があるからである。
右三条件をみたすことのできる計算センターとしては町庁舎に最も近いM・I・Kが最適であり、その処理能力については水道料金徴収事務のコンピュータ処理の実績から疑念がなかった。
4 同4項(一)の事実、同項(四)前段の事実は認めるが、同項(二)、(三)及び(四)後段の主張は争う。
本件各契約は、小山町条例第一八号二条に該当する契約ではないから、議会の議決を要しない。議会の議決を要するのは「工事又は製造の請負」契約であり、工事請負契約すなわち土地工作物の造成または製造等の工事を指称すると解するのが相当であるところ、本件各契約はコンピュータによる小山町の各種事務処理の委託であり、これに該当しないこと明らかである。
5 同5項の事実は争う。
(一) 小山町では昭和四七年当時水道事業について、水道課職員の大多数が連日、破損箇所の修理等の現業に従事し、加えて水道本管及び貯水池移設工事の監督業務に忙殺され、水道料金計算等の事務の渋滞が著しかったため、事務改善委員会において、水道料金徴収事務にコンピュータ処理の導入が検討され、M・I・Kと交渉が進められた結果同年四月M・I・Kから見積書が提出され、同年六月導入による利点が調査報告された。同年七月、小山町は未曽有の集中豪雨により甚大な被害を蒙り、河川、道路等の災害復旧工事が進められることとなったが中堅職員三〇名を災害復旧対策に投入することを余儀なくされたため町行政全般に亘り事務処理の渋滞は著しいものとなった。右豪雨による上水道施設の被害も甚大であって、水道課職員は応急復旧工事等現業に忙殺され、現業以外の事務の遂行が困難となり、料金計算業務はさらに渋滞するに至った。
かくして、小山町は水道料金徴収事務をコンピュータで処理することをM・I・Kに委託することとし、昭和四七年九月町議会の議決を得て、M・I・Kと契約を締結したのであるが、被告は、事前にM・I・Kの資本の額、役員構成、所属技術者、使用機種等をよく調査していたし、本件各契約はM・I・Kが水道料金徴収事務処理に示した成果を考慮したからこそ締結されたものである。
(二) 被告は、コンピュータによる水道料金徴収事務が所期の成果をあげたことから、都市開発課をして小山町の事務全般にわたるコンピュータ処理の導入を検討することとし、昭和四八年四月M・I・Kに調査を委託し、提出された調査結果を検討する等した後、同年一〇月一日いわゆるトータルシステムの基礎である住民記録システムの開発をM・I・Kに委託した。そして昭和四八年一〇月、担当課員をして、町議会総務委員会委員とともに、沼津市役所、三島田方行政情報センター及びM・I・Kを視察調査させたのであるから、原告らが調査の欠如を主張するのは当を得ない。
(三) 被告は、昭和四九年一月、M・I・K以外に大興電子通信株式会社からも住民税、国民健康保険税、国民年金、給与計算のシステム開発料について見積書を徴し、委託代金額が適正であるか否かを確認したし、本件各契約締結後ではあるが、小山町は、日本経営協会に対し、昭和五〇年四月住民記録異動処理事務等について、同年六月国民健康保険税徴収事務について、同年八月住民税徴収事務システム開発について、それぞれ算定基準の作成を依頼し回答を得たが、右回答によっても、本件各契約の委託代金額の適正が確認された。
(四) 小山町がM・I・Kに委託して開発したいわゆるトータルシステムは、自治体事務のコンピュータ処理方式として高い評価を得ているものであり、その開発に費用を要することは当然である。他の計算センターや電算機メーカーが同種の方式を既に開発していたとしても、特定の自治体の業務に右方式による処理を導入するについてシステム開発が不要となるものではなく、したがって、開発費を要しないというものではない。なるほど、ある県内の多数の自治体が特定の計算センターによるコンピュータ処理を導入すべく、その指導の下に事務を細部にわたって規準化し、その規準化された事務の範囲内においてシステムを開発し、多数の自治体に右システムを導入することができれば、開発費用の負担を多数の自治体に分散させることができようし、その名目による負担を要しないとすることがあるかも知れない。
しかし、事務の規準化されていない自治体に導入するについてはシステム開発が不要となるものではない。
そして、費用の多寡はコンピュータ処理方式を導入する自治体のおかれている諸条件によって規定される。委託条件すなわちシステム開発またはその後のコンピュータ処理の作業条件によって異なるものであり、それらを総合的に判断して初めて比較し得るものであり、この総合的判断は正に行政の裁量の範囲に属するものである。
6 同6項の主張は争う。
7 同7項の事実は否認する。
原告らが「適正委託代金額」の算定基礎とするティ・ケイ・シィが作成した見積書は、小山町議会議員の依頼によるものであるが、右依頼者には小山町の事務処理委託の権限がなく、ティ・ケイ・シィも受託に必要な最低限度の条件を調査したことがないのであるから、小山町の事務処理委託の内容が考慮されて見積りがされたものということは疑わしいし、また、小山町の委託条件に基づいて算定がなされてもいないから、本件各契約の委託代金額が適正か否かの基準たりえない。ティ・ケイ・シィは企業努力によりシステム開発費用を計上することを要しないとするが、それは特定の地方自治体等と協議してその事務を統一し、その限度において共通のシステム開発を行なうという特殊な方式に由来するものであり、その方式を他の地方自治体等にそのまま適用することはティ・ケイ・シィの受託条件を押し付ける結果となり、小山町の委託条件ひいては行政環境をも無視するものである。被告がM・I・Kに委託した事務処理の範囲は、小山町の行政環境を考慮して被告の裁量により決すべきものであって、当時の状況において、本件各契約の内容、範囲はすべて妥当であった。従って、ティ・ケイ・シィの見積りは独自のもので、これを基礎とした原告らの主張する「適正委託代金額」は本件各契約の代金額と比較するに適しないものである。
8 同8項の事実は認める。
第三証拠《省略》
理由
一 当事者間に争いのない事実
原告らが小山町の住民であり、被告が昭和四六年五月から同町町長の地位にあること(請求原因1項)、被告は小山町長として、M・I・Kとの間に、請求原因2項記載の細目のもとに昭和四九年度分として代金総額金四三一〇万円、昭和五〇年度分として代金総額金二七八四万五七四〇円で同町の各種事務のコンピュータによる事務処理を委託する本件各契約を締結し、その各代金が支払われたこと(同2項)、本件各契約が随意契約の方法により締結されたこと(同3項(一))、小山町条例第一八号二条により議決に付さなければならない契約は予定価格金一〇〇〇万円以上の工事又は製造の請負であって、本件各契約締結について町議会の議決を経ていないこと(同4項(一)、(四))、原告ら(但し、昭和四九年度分契約については、原告岩田一男のみ)が本件各契約と代金支払につき、小山町監査委員に監査請求したこと、及び同監査委員が右各請求は理由がない旨の監査結果の通知を原告ら(同)にしたこと(同8項)の各事実は当事者間に争いがない。
二 随意契約の可否について(請求原因3項)
1 地方自治法二三四条一項は、売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする、と規定し、同条二項は、前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる、と規定し、同法施行令一六七条の二第一項は、随意契約によることができる場合として、一号から六号(昭和四九年政令第二〇三号による改正により一号が新設され、旧一号から六号は一号ずつ繰り下げられ二号から七号となる。施行は同年六月一〇日)を掲げているが、右各号は、その形式から、限定列挙と解される。
これらの規定の趣旨は、随意契約が任意に特定の相手方を選んで契約を締結する方式であることから、他の方式による場合に比して情実に左右され易く、公正を害する虞れが大きいため、随意契約の方法によることのできる場合を可及的に制限したものにほかならない。
ところで本件各契約は、住民記録異動処理などの地方自治体の各種事務処理を民間計算センターに委託するものであり、その事務処理が正確効率的にされること等のほかに、地方自治体の行政事務の秘密保持、住民のプライバシー保護の要請等がきわめて強く望まれるものであって、この点に関する委託業者の信頼性及び自治体の委託業者に対する監督権を確保しなければならない等の特殊性がある。したがって、本件各契約はこのような観点から、委託業者を選択するにあたり、総合的判断、裁量に任されなければならない部分が大であると解され、地方自治法施行令一六七条の二第一項一号(前記改正後は二号)の「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当するものといえる。
三 条例違反の有無について(請求原因4項)
前記のとおり、小山町条例第一八号二条により議会の議決に付さなければならない契約は予定価格金一〇〇〇万円以上の工事又は製造の請負であること及び本件各契約締結について町議会の議決を経ていないことは当事者間に争いがない。
右条例は、「工事又は製造の請負契約」と限って、議会の議決に付さなければならないと定められているところ、原告らも自認するように本件各契約は行政各事務のコンピュータ処理の委託であって、「工事又は製造の請負契約」に該当するとは認められない。また条例の趣旨、文言からこれを準用して、本件各契約に議会の議決を必要と解すべきであるとはいえない。
よって、原告の条例違反の主張は失当である。
四 財務規則違反の有無について(請求原因5項)
1 《証拠省略》によれば、小山町規則第三号小山町財務規則一六四条は、「随意契約によろうとするときは、あらかじめ第一五四条の規定に準じて予定価格を定め、かつ、なるべく二人以上の者から見積書を搬する(財務規則の原文のままであるが、「徴する」の誤記ではないだろうか。以下、便宜、「徴する」という用語を使用する。)ものとする。但し、その予定価格が金五〇〇〇円をこえないもの又は収入印紙、切手、図書、定期刊行物その他市場価格をそのまま予定価格として採用してさしつかえないものに係る契約をするときは、見積書を省略することができる。」と定め、同規則一五四条二項は「予定価格は契約の目的となる物件又は役務について取引の実例価格、履行の難易、数量の多少、履行期間の長短、需給の状況等を考慮して適正に定めるものとする。」と定められていることが認められる。
これは随意契約による場合でも、その弊害を除去し、契約の公正を担保し、かつ、経済性を確保するため、所定の手続をとることを義務づけているものといえる。
2 そこで、以下、本件各契約の締結につき右財務規則違反の有無を検討する。
《証拠省略》を総合すると、以下の事実が認められる。
(一) 地方自治体においても、事務の合理化、行政の高度化を目的とするコンピュータの導入は、年々増化の一途をたどり、昭和四九年四月一日当時の資料では、全国の市区町村の六三・四パーセント、二、〇八八団体が何らかの形態でコンピュータを利用し、そのうち事務処理を計算センター等に委託している団体は一、六三四団体であった。
このような趨勢に対応して、市町村等の地方自治体からコンピュータによる事務処理を受託する民間計算センターが多数存在し、静岡県下では静岡放送株式会社静岡電子計算センター、日本エム・アイ・シー株式会社などの有力な民間計算センターがあったし、その他東京、横浜の有力な計算センターも小山町からの委託に応えられる状況にあった。
(二) 市町村がコンピュータを利用して事務を処理する目的は、例えば給与計算とか水道料金の計算等大量反復の手作業事務を機械化し省力能率化を図ることだけではなく、税、使用料等の賦課徴収を中心として、国民健康保険、年金、教育、選挙等を包含した住民情報の総合的処理の体系を構成して行政事務を高度に処理することにあるといえる。
そして、コンピュータを利用してこのような事務処理を行うには、コンピュータが行うべき仕事の内容と順序を定めたプログラムを作成する作業が重要で、そのため、コンピュータを最大限に活用して最も効率のよい情報を作りだすようにシステムを設計する必要があり、それには事務内容、書類の形式、組織の分析等現行のシステムの調査分析を行ない、このようなシステム分析で得た結果を基に新しく設計すべきシステムの処理内容の検討、インプットデータの収集方法、様式、内容等の検討、システムの中に保存される記録の検討、要求されるアウトプットが総て満足に得られるか否か等の検討が行なわれるのであって、事務処理の内容、規模にもよるが、その過程にはそれぞれ高度に専門化された知識、経験や熟達した技術を必要とすることはもとより相当多額の費用をも必要とする。
前に掲記した市町村の行政事務は、住民基本台帳法、地方税法その他関係法令によりその事務の内容、計算が決められており、さらに、規則や行政指導等により、事務処理の内容、様式が統一されている部分が多く、その他の事務処理にも各市町村間に多くの共通性がある。たとえ地域性等により、市町村の事務の一部に独自性があっても、標準的なシステムにつきプログラムを一、二加えるか、若干の修正を施すことでまかなうことができる。
このようなところからして、コンピュータの導入にあたり、特に行政事務の細部まで事務を規準化しなくとも、既存の自治体業務のコンピュータ処理システムがあればそれを利用することができ、独自に自治体事務のシステムを別個に委託して開発する必要性は多くない。
また、人口催か二万三五〇〇人余の地方自治体がコンピュータによる事務処理につき独自性を発揮する余地もさほど多くない。
本件各契約締結の頃には、すでに民間計算センターは積極的に地方自治体の各種行政事務の処理システムを開発公開していたし、個別に処理システムを開発したのでは経費の負担が多く情報交換も困難となるので、地方自治情報センターその他の関係団体等では標準システムの開発の推進に努力し、公開されたシステムを各市町村に利用させていたのであって、このような事情のもとに民間計算センターは地方自治体から事務処理を受託できる十分な態勢にあり、数社が受託を争う状況にあった。
また、当時、電士通、日本電気などのコンピュータメーカーはトータルシステムを開発し、そのマニュアルを用意し、計算センターに提供し、積極的に情報を公開、交換していた。
そして、計算センターは、トータルシステム、個別処理システムのいずれについても、若干のプログラム変更料を請求することはあるものの、システム開発費用を請求することなく、事務処理委託費だけで地方自治体からのコンピュータによる事務処理を受託していた。
(三) M・I・Kは、後記のとおり小山町から水道料金徴収事務処理の委託を受ける約一年前の昭和四六年一一月二日、小山町議会元議長米山孝、同元副議長瀬戸正春らを取締役に迎えソフトウェアー開発その他コンピュータによる事務処理の受託を営業目的として、資本金二〇〇万円で、本店を静岡県御殿場市新橋二〇六番地に置き設立された旧商号梶経電子計算センター株式会社という計算センターである。昭和四七年六月二一日商号が現在のM・I・Kに変更され、昭和四八年四月一八日資本金が金八〇〇万円に増額された後発の小規模計算センターで小山町から事務処理の委託を受ける以前には地方自治体から委託を受けた実績はなかった。また、M・I・Kにおいてコンピュータに直接関係する要員、特にプランナー、プログラマー等の人数も少く、多少の個人差はあるものの、その知識、経験、企画力等が特に秀れていることはなく、本件各契約締結の頃、既に開発され、公開、利用されていたトータルシステムに対する知識、関心も低かった。
(四) M・I・Kが開発したシステムは、所謂トータルシステムではなく、また被告が主張する総合管理方式と評価できる設計内容でもなく、むしろ、個別処理システムとみて差支えのないものであった。
トータルシステムであれば、住民記録情報の中に国民健康保険、国民年金等の情報がインプットされているので、住民記録の異動処理のみで国民健康保険、国民年金等の処理もでき、これらについて別個の処理がいらない。これに対し、M・I・Kが開発したシステムでは住民記録の異動処理をしても、国民健康保険等についての異動処理を各々別個にする必要があった。そして、その処理も、該当者のリストを手作業で出さねばならない不便があったり、二重に処理することから、コンピュータによる事務処理の結果に誤りが多くなり、小山町の職員がコンピュータによる事務処理を再度照合しなければならなかった。
(五) 小山町は、M・I・Kに対し、いずれも随意契約の方法で、昭和四七年一〇月二〇日コンピュータによる水道料金計算事務処理のシステム設計を代金七四万二〇〇〇円で委託し、昭和四八年四月二日同年度の水道料金計算事務処理を代金二九四万円で委託したが、その後被告はM・I・Kに対し、将来、税、使用料等の賦課、徴収を中心として、国民健康保険、年金、選挙等を包含した住民情報のコンピュータによる総合的な処理を、システム設計を含め委託することとして、これに備え、小山町の住民記録をコピーさせたりする等しながら、逐次、M・I・Kに対するコンピュータによる事務処理の委託を拡大し続けた。
M・I・Kも小山町から昭和四八年四月ころ依頼を受けたコンピュータ導入のための調査において、その適用業務を挙げてコンピュータ導入の効果、方法等を報告するとともに、被告の主張するところの総合管理方式の利点等を強調した。
(六) 住民記録のシステム開発費金一三七五万九〇〇〇円の予算案は、昭和四八年九月小山町議会定例会で審議され、同年一〇月一日可決されたが、審議の過程で、多数の議員から見積りを徴したか否か、見積りが高くはないか、M・I・Kの実態を調査したか否か、実績のある会社に委託すべきであるとか、コンピュータ導入の方式などについての質疑がなされ、これに対し、町長である被告は、慎重に検討をする旨確言し、総務委員長湯山公から、M・I・Kに委託するまでに専門家の説明を受けることや先進地や会社の見学を実施することを当局側も合意している旨の表明があり、特に同年九月二八日の総務委員会での予算審議の過程で、「予算案が可決されたからとして直ちにコンピュータを委託するということなく、できるだけ念入りに検討を加え、特に専門家の説明を委員会にもしてもらうよう措置されたい。」との意見が付され、被告は「議会が終了したら一応皆さんにもご検討をいただいたうえで執行する。」と明言したのであるが、それにもかかわらず、同年一〇月一日予算が可決されるや、即日被告は、小山町とM・I・Kとの間に住民記録のシステム開発委託契約を代金一三七五万九〇〇〇円で締結した。
被告は、昭和四九年一月一〇日、M・I・Kから住民税、軽自動車税、国民健康保険税、国民年金、給与計算事務のシステム開発費用の見積書を徴し、これとは別に、同月一四日、大興電子通信株式会社に対し、右システム開発費用の見積書の提出を依頼したが、大興電子通信は富士通のコンピュータのディーラーであり、M・I・Kは大興電子通信を通じてコンピュータを借入れていたという関係にあり、到底公正な見積りを期待できない業者であって、同月二〇日大興電子通信から提出された見積書は、その見積方法、内容等杜撰なもので、勿論作為的にM・I・Kの見積書の金額より割高にして算出されたものであった。
(七) M・I・Kの見積りは、事務処理の全工程につき必要とする人工数、パンチ数、マシン使用料等の区分を設定して、それに他業者よりも高い単価を乗じて合計したうえ、諸経費として一率に二五パーセントの割合の金額を加えた所謂、原価積上げ方式により算出したもので、後発の小規模計算センターで、小山町以外にさしたる委託者のないM・I・Kがこのような方式によったことが、その見積りを高額なものとした主因となっている。そして、M・I・Kの見積りは、一般の民間計算センターの見積りと比較しても、小山町と人口、世帯数、行政規模等が類似する近隣の地方自治体における実例と対比しても、その額は適正でなく、一般に事務処理委託費用の見積方式が多様で、実例価格も比較的区々であり、また、事務処理の方式、内容等にも差異があって、単純な比較は困難であるが、一応、適正価格の二、三倍程度とみることができる。
(八) しかし、被告は、小山町長として他の業者や市町村に対し、コンピュータ導入の実情、システム開発の要否、委託費用等について深く調査することがなく、M・I・Kの見積りが前記のとおり高額であることにも強い関心を払わず、また、前記のとおり、見積書をM・I・K以外に大興電子通信からも徴したことがただ一回あったのを除き、昭和四七年一〇月二〇日、M・I・Kに水道料金計算事務処理のシステム設計を委託して以来、本件各契約をも含め、見積書をM・I・Kから徴しただけで、二人以上の者から徴したことはまったくなかった。
(九) そして被告は小山町長として昭和四九年四月一日、M・I・Kとの間に昭和四九年度契約を締結したが(この事実は当事者間に争いがない)、その代金四三一〇万円のうちシステム開発費は金二五四二万円、事務処理委託料は金一七六八万円である。
(一〇) 昭和五〇年三月、小山町議会定例会に昭和五〇年度契約及び固定資産税、国民年金のシステム開発費金二八七二万円の予算案が提出され、コンピュータ委託契約問題調査特別委員会で検討されたが、この頃にはすでにコンピュータによる事務処理委託契約について疑惑が高まり、同月三一日定例会において右システム開発費金二八七二万円が減額削除されたうえ昭和五〇年度契約の予算額節減の要望が付されて、右予算は可決された。そして、コンピュータによる事務処理委託契約が政治問題化して紛糾した結果小山町議会は、昭和五一年度の予算案のうちコンピュータ委託費の全部を否決し、昭和四九、五〇年度のコンピュータ関係の決算案も承認しなかった。
以上のとおりである。
《証拠判断省略》
以上認定の事実関係からすると次のとおり結論することができる。すなわち、随意契約の方法により被告が小山町長として民間計算センターとの間にコンピュータによる事務処理委託契約を締結するに当り、業者の選択、価格等契約内容の決定に広い自由裁量を有することは否定できないところである。しかし、自由裁量といえども裁量権者の恣意を許すものではなく、裁量の本質や目的に従った限界があることは当然であって、遵守すべき法規があればこれを尊重しその目的を考量して行使されねばならず、右制限を超えた裁量は、裁量権を濫用した違法な行為としなければならない。ところで、財務規則一六四条前段が「随意契約によろうとするときは、あらかじめ一五四条の規定に準じて予定価格を定め」るものとしたのは裁量権者の技術的判断を尊重して所定の方法によれば、予定価格を一応適正に定めることが期待できるとして、そのよるべき方法を示したにほかならないのであるが、右方法によって予定価格を定めるものとするほかに、一六四条後段が、「かつ、なるべく二人以上の者から見積書を徴するものとする」と定めたのは、裁量権者が一五四条二項所定の方法によって予定価格を定めたとしても、二人以上の者から見積書を徴し、更に価格を検討することによって、予定価格がより客観的、具体的に公正となり、より高い経済性を確保することができるし、ときに、裁量権者の技術的判断を補充して、裁量が過誤独善に陥ることのないよう機能させることとなるところから、裁量権者が一五四条二項所定の方法によって予定価格を定めたとしても、更に、一六四条後段所定の方法によるべきことを示したものといえる。従って、一六四条後段に、「なるべく二人以上の者から見積書を徴するものとする」というのも見積書を一人の者から徴すれば足りるか、二人以上の者から徴しなければならないかの選択を裁量権者の恣意に委ねたものではなく、裁量権者の技術的判断によって、予定価格を適正に定めることが一般的、客観的に期待できる程度の契約であれば、見積書を一人の者から徴しただけであるからといって、ただちに、裁量が違法となるとはいえないとしても、契約の種類、性質、内容等からして予定価格を定めるについて、明らかに裁量権者の技術的判断だけではまかなえないような特殊なもので専門的知識が必要であるとか、あるいは価格が非常に高額で慎重な検討が必要であるとかその他実例価格が区々で価格が適正であるか否かの判断に著しい不安、困難がある場合等には、二人以上の者から見積書を徴するか否かの裁量は財務規則が所定の手続を義務づけた前記目的に従って合理的に制限されるものと解すべきであって、この制限を超えた裁量は、裁量権の濫用として違法となるものといえる。
そして、前認定の事実によれば被告が小山町長として、財務規則一五四条二項を遵守し取引の実例価格、需給の状況等を考慮したうえ本件各契約の予定価格を適正に定めたものとすることは到底できないところ、本件各契約は、小山町としては画期的事業の遂行にかかるもので、きわめて高額の支出を必要とし、町財政に及ぼす影響はすくなからぬものがあり、また、当時としては、特殊で、理解に専門的知識を必要とするところがすくなからずあり、そのようなことからして町議会の審議において、前記のような質疑があり、被告に対し契約締結には慎重な検討を加えることが要望され、被告もこれを確約したのであるし、M・I・K以外の有力な計算センターから見積書を徴することは容易であって何等の支障もなかったのであるから、このような場合には、財務規則が所定の手続をとることを義務づけた目的に従い、同規則一六四条の内容をできる限り尊重し複数の者から見積書を徴すべきであったにかかわらず、被告は、前記のとおり財務規則一五四条二項を遵守することなく昭和四九年度契約のうちシステム開発費用の見積書を大興電子通信からも徴したことがあったのを除いて、他はことごとく、後発の小規模計算センターであるM・I・Kからだけ見積書を徴したうえ、右見積価格とほぼ同額の代金でM・I・Kとの間に本件各契約を締結したものであり、大興電子通信から見積書を徴したのも財務規則一六四条により義務づけられた所定の手続を忠実に履践したものではなく、単に形式をととのえるための不明朗なものにすぎないのであるから、被告が小山町長として、以上のとおりにして本件各契約につきM・I・Kからしか見積書を徴さなかったのはその裁量権を濫用したものといわざるを得ず、M・I・Kとの間に本件各契約を締結した被告の行為は財務規則一六四条に違反した違法なものであるといえる。
町長である被告の本件各契約締結の行為は、地方自治法二四三条の二第一項一号の支出負担行為であるところ、前記のとおり小山町財務規則に違反するものであるから同条一項後段に該当し、被告は、本件各契約の締結によって、小山町に与えた損害を賠償すべき責任を負わねばならない。
五 損害
原告らは、その主張にかかる「適正委託代金額」と、本件各契約代金との差額を以て損害であると主張しているので検討する。
まず、本件各契約のうち事務処理委託費用については、前記のとおりその代金額が適正を欠くものであることは否定できないが、随意契約の方式により締結された本件各契約の代金額決定については、事務処理委託費用の見積方式が多様で、実例価格も比較的区々であり、また、処理の方式、内容等にも差異があるし、原告らがその主張にかかる「適正委託代金額」の算定基礎とするティ・ケイ・シィの見積りが小山町の事務処理を現実に受託するものとして小山町個有の事情等をも含めて算定されたものとまで認めるに足りず、他に、この点に関する的確な証拠もないので、結局、本件各契約のうち事務処理委託費用の損害については、その発生を認めるに足りない。
しかし、昭和四九年度契約のうちシステム開発費用金二五四二万円については、前記のとおり、本件各契約締結の頃には多くの計算センターが地方自治体からコンピュータによる事務処理を受託できる十分な態勢にあり、トータルシステム、個別処理システムのいずれについても、システム開発費用を請求することなく事務処理委託費だけで、コンピュータによる事務処理を受託していたのであるから、その支出を財務規則一六四条に違反したことによって生じた損害と認めることができる。
六 結論
以上の理由により、原告岩田一男が小山町を代位して被告に対し損害賠償を求める請求(昭和五〇年(行ウ)第五号事件)は、金二五四二万円及びこれに対する訴状到達の日の翌日であることが本件記録上明白な昭和五〇年八月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分について理由があるから右限度でこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、原告らが小山町を代位して被告に対し損害賠償を求める請求(昭和五一年(行ウ)第八号)は、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を適用し、仮執行の宣言は相当でないのでこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高瀬秀雄 裁判官 松田清 裁判官駒谷孝雄は転任のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 高瀬秀雄)